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物理を盛り上げるためのファンサイトです。
ネタバレありで行きますので、ネタバレを気にする方はご注意下さい。
(ただいま編集は制限させていただいております)






>>「力学」の平原

エネルギー保存則を導く

 

クエスト概要

 ニュートン力学の体系内には運動量の他にも保存する量があるのですが、それが正しく認識され広まるには長い年月を要しました。
 今回はそれを最短ルートで導いてみます。

 

クエスト発生条件

運動量保存則をクリア後に選択可能になります。

 

攻略法

 まずニュートンの運動方程式を用意します。

mdvdt = F

 この後の計算の都合のために速度 v を使って表しています。 次にこの両辺に速度 v を掛けてやります。

mvdvdt = Fv

 なぜこのようなことをするのか、この等式自体にどういう意味があるかについてはここでは考えないようにしてください。 数学的に無理のない式変形によって得られた関係式は、 人間が下手な思い付きで理屈をこね回して作った式よりはよっぽど信頼が置けるものです。 昔の人々の試行錯誤の結果としてたどり着いた関係式をニュートンの運動方程式から最短ルートで導くのが今回の目的です。 この (2) 式の両辺を時間 t で積分してやると次の式が得られます。

12mv2 = Fdx + C

 この (2) 式から (3) 式への変形は微積分の扱いに慣れていれば説明は不要なのですが、 初めて力学を学び始めたほとんどの人にとっては難しいと思いますので、詳しく説明してみます。

 まず左辺から考えてみましょう。 (2) 式の左辺をどう積分したら (3) 式のようになるのかを考えるよりも、逆に、(3) 式を微分して (2) 式になることを確かめる方が近道です。 このような経験を繰り返すことで、(2) 式を見て即座に (3) 式を思い付けるようになって行くものです。 (3) 式の左辺に含まれている v は時間の関数 v(t) です。 このようなものを微分するときには高校の数学でも習う「合成関数の微分」のやり方を思い出す必要があります。 まず全体を v で微分してやって、次に vt で微分してやったものをそこに掛ければ、全体を t で微分したことになるのでした。 (2) 式の左辺を見てやると、確かにそのような計算をしたのと同じ形になっています。

 次に右辺について考えてみましょう。 こちらも左辺と同じように、(3) 式を微分して (2) 式になることを確かめてみます。 Fdx というのは F(x) を不定積分した結果として得られる何らかの関数を表していて、その変数は x です。 つまり、これをまず x で微分してやると F に戻ります。 しかし今は全体を t で微分しようとしているのですから、xt で微分したものをさらに掛けてやる必要があります。 xt で微分したものというのは v のことですから、(2) 式の右辺にあるのと同じ形になることが分かります。 積分定数の C は微分した時に消えてなくなります。

 さて、実は上で行った (2) 式から (3) 式への変形には大きな問題点があります。 それは、いつの間にか、力 F が物体の位置 x のみによって決まるものだという仮定が入り込んでしまっていることです。 力は物体の位置だけで決まるようなものばかりではありません。 時間経過によって勝手に変化するような場合もありますし、物体の速度によって決まる場合もあります。 例えば空気抵抗は物体の速度によって力の大きさや向きが変わる代表的なものです。 地面との摩擦力の大きさは速度によってはあまり変わりませんが、物体の運動方向によって向きが変わりますから、やはり F(x) では表せません。 無理やり振動的な力 F(t) を与えて物体を揺さぶってやる場合もありますが、これも物体の位置とは無関係な力です。

 そういう色んな場合については後で考えることにして、今回は力が F(x) と表せる場合に限定して考えていくことにしましょう。

 次に (3) 式にある積分定数 C がどう表せるかを決めてやります。 まず、F(x) の不定積分を G(x) と表すことにすると、(3) 式は次のように表せます。

12mv2 = G(x) + C

 そして、ある時刻、例えば t=0 において、物体の速度が v=v0、物体の位置が x=x0 だったとして、その初期条件を (4) 式に代入してやると

C = 12mv02  G(x0)

が得られますので、これを (4) 式に戻してやると、次のようになります。

12mv2  12mv02 = G(x)  G(x0)

 つまり、速度によって決まる何らかの量である 12mv2 の変化は、位置によって決まる何らかの量 G(x) の変化量に等しいということが言えます。 あるいは項の入れ替えをして次のように書き直した方が良いのかもしれません。

12mv2  G(x) =  12mv02  G(x0)

 こうしておけば左辺と右辺は同じ形になります。 右辺は初期状態の何らかの量を表し、左辺は任意の時刻の何らかの量を表しています。 つまり、それはいつまで経っても変わらない量であることが分かります。 そろそろこれらの量にちゃんと名前を付けておきたいところですが、G(x) の前にマイナスが付くのが少し落ち着かないので、V(x)=G(x) と定義したものを導入して書き直してみましょう。

12mv2 + V(x) =  12mv02 + V(x0)

 この左辺第 1 項を「運動エネルギー」と呼び、左辺第 2 項を「位置エネルギー」と呼ぶことにしましょう。 運動エネルギーは物体の動きを見ていればその大小がイメージできる量ですが、位置エネルギーは目に見えにくい概念なので、潜在的なエネルギーだという意味を込めて「ポテンシャルエネルギー」と呼ばれることも多くあります。 (実は英語では位置エネルギーのことをポテンシャルエネルギーと呼ぶというだけの話なのです。) 運動エネルギーと位置エネルギーを合わせたものを「力学的エネルギー」と呼びます。

 これらの用語を使えば、今までの話は言葉で分かりやすく表せます。 運動エネルギーの変化は位置エネルギーの変化に等しく、運動エネルギーが増えれば位置エネルギーは減るし、運動エネルギーが減れば位置エネルギーが増えるという関係になっています。 あるいは「力学的エネルギーは変化せず常に一定のままである」とも言えます。 この法則を「エネルギー保存則」と呼びます。

 位置エネルギーの定義をもう少しはっきりさせておくことにしましょう。 先ほどまでの議論では力 F(x) の不定積分に物体の位置を代入して全体にマイナスを付けたものを V(x) と表したのでした。

V(x) = xF(x)dx

 運動エネルギーの方は物体が静止しているときに 0 になるように決めておくのが一番イメージしやすいのですが、位置エネルギーは 0 となるところに特別な意味があるとは限りません。 実際にこの法則を使うときには位置エネルギーの変化分にだけ興味があるので、計算しやすいようにあらかじめ (9) 式の定義に勝手な定数を加えたりしておいても問題ないわけです。 あるいは、どこかの地点 xs を勝手に基準点として決めてやって、そこの位置エネルギーを 0 と決めてやっても良いでしょう。 そのようにしたい場合には次のように定積分を使って定義します。

V(x) = xxsF(x)dx

 この定義でも (8) 式は問題なく成り立ちます。 この定義を使えば、基準点での位置エネルギーを V(xs)=0 として、あらゆる地点での位置エネルギーを決めてやることができます。 これによって少しイメージしやすくなるかもしれません。

 今回は、力が物体の位置によってのみ決まるような特別な場合だけを考えており、そのお陰で位置エネルギーというものを計算することができました。 ところが現実の場面で物体に働く力というのはそのように表せない場合の方が多くありますので、今回のような話は長きに渡って「特別な状況だけで成り立つ数学的な遊び」としか思われませんでした。 わざわざ「エネルギー」という言葉を作ってまで現実の問題に広く応用する動機がなかったものと思われます。 現実の世界には、摩擦によって失われる熱エネルギーや音や振動の発生によって失われるエネルギーなどを考慮しないとうまく説明できない現象ばかりです。 エネルギーの概念を確立するのに時間がかかったのは、それらを含めた試行錯誤があったからなのでしょう。

 今回の話に出てきた位置エネルギーは他の形態のエネルギーを説明するための基礎になっていたりもしますので、限られた場合にだけ成り立つものだなどと考えて過小評価しないように気をつけてください。

 

参考資料

(要編集:ヒントが載っている魔導書ページへのリンク、記載されているページ数など)

 

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