>>「力学」の平原
今後のクエストに備えて質量という概念を手に入れておきましょう。
力学ぶらり旅(その3)をクリア後に選択可能になります。
「質量の正体は何か」というのはかなりの難問ですが、ここではもっと単純な、「力学における質量の定義」の話をします。 ところがこれを説明するのもなかなか簡単ではありません。 「これが質量です」と取り出して見せられるようなものではないからです。
「物質の量を地球上での重さで表したもの」と考えればだいたいは合っています。 しかし残念ながらこれは厳密な定義にはなりません。 「地球上」と一言で言っても、標高や緯度や周囲の地盤の岩石の密度などによって重力の大きさがわずかに違っており、 また、気圧によっても物体に働く浮力が変わってきますから、「重さ」というものは場所によって変化してしまうからです。 (緯度によって重力が変わるのは、地球の回転による遠心力の大きさが違ってくるからです。)
このように、「重さ」というのは物体が持つ固有の量だとは言えません。 月面上では地球上での約 6 分の 1 になりますし、宇宙を漂う宇宙船の船内では重さは無くなってしまい、物体は宙に浮かぶことになります。
それでも物体は「重さ」に似た何らかの量を持っていて、それは周囲の環境によって変化するようなものではないであろうというのが「質量」という考えの起源です。 そして、重さを量る時と同じ kg (キログラム)という単位を使って表します。
物体の重さというのは環境によって変化してしまうものなので、代わりに「質量の基準」となるものを何か決めておかないといけません。 元々は水 1 L の質量が 1 kg であると言えるように決めたのですが、もっと正確な基準が必要だというので、 「国際キログラム原器」という白金-イリジウム合金製の分銅が作られ、長い間、それを基準としてしてきました。 それでも長い間に酸化したり摩耗したり不純物が付着したりしてごく僅かに質量が変わってしまうというので、 現代の精密な測定技術の基準として使うのは頼りないということになり、 2019年からは物理法則を使った新しい定義に変更されました。
物理学では「質量」というものを「重さ」とは異なる概念として採用して理論体系を組み立てました。 それは非常にうまく行っていて今のところ矛盾らしいところが見つかっていません。 あとで「質量」と「重さ」の関係を理論的に考えることにしましょう。
気になるかも知れないので質量の新しい定義を簡単に説明しておくことにします。 これまでプランク定数 \( h \) というものを精密に測る努力をしてきましたが、 この定数はおそらく宇宙が始まって以来変化したことがない本当の意味での定数だろうという確信が強まってきたので、 この定数の値を次のような定義値として採用することにしました。
\[ h = 6.662606957 \times 10^{-34} \ [\mathrm{Js}] \]
振動数 \( \nu \) の光の粒のエネルギーは \( E=h\nu \) という式で表され、 エネルギーと質量との間には \( E = mc^2 \) という関係があるので、この2つの式を合わせて \( h\nu = mc^2 \) という式が作れます。 (\( c \) は光速で、こちらは以前から定義値として採用されています。) この式で \( m=1 \) とすると \( \nu = c^2/h \) となるので、 「1 kg とは、振動数が \( c^2/h \) であるような光子の質量である」と言えるわけです。 この振動数はあまりに大きすぎて直接比べられるようなものは現実の世界には存在していませんし、 そのような巨大なエネルギーを持つ光子も存在していませんが、問題はありません。 精密に定義するために非現実的なスケールでの表現がされているだけです。 理論的にうまく調整して利用することができるでしょう。
この新しい質量の定義を使っても、私たちの日常生活には影響はありません。 今回定義値に変わったプランク定数は以前から精密に測り続けて得ていた値に近い値を採用しており、 その値は以前の 1 kg の定義を基準として使って測定していたものだからです。
(要編集:ヒントが載っている魔導書ページへのリンク、記載されているページ数など)